本のコト_01

葉 / 太宰治

“葉”は処女作短編集「晩年」の中の一篇。

 

太宰治(1909-1948)
青森県金木村(現・五所川原市金木町)生まれ。本名は津島修治。東大仏文科中退。在学中、非合法運動に関係するが、脱落。酒場の女性と鎌倉の小動崎で心中をはかり、ひとり助かる。1935(昭和10)年、「逆行」が、第1回芥川賞の次席となり、翌年、第一創作集『晩年』を刊行。この頃、パビナール中毒に悩む。1939年、井伏鱒二の世話で石原美知子と結婚、平静をえて「富嶽百景」など多くの佳作を書く。戦後、『斜陽』などで流行作家となるが、『人間失格』を残し山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

当ブログはワンダーワーカーの代表が、趣味のコトや仕事のコト、なんでもないようなことが幸せだったと思うコト、等々をただただ自由に書いてます。不定期更新。何卒。

本のコト、#01は太宰です。

 

本好きなら誰もが一度は通る道、青春のはしか太宰治。「人間失格」「ヴィヨンの妻」「斜陽」「走れメロス」等有名な作品ばかりです。

今回紹介するのは、処女作品である短編集「晩年」の冒頭の作品、「葉」。

初めての作品集の名前が「晩年」。初作品でもう晩年…。

 

この短編集ですが、冒頭の「葉」は 15分もあれば読めると思います。太宰を未読の方がこれを読んでビビッとくれば他の太宰作品もきっと楽しめるはず。逆になんだこりゃと思った方は、太宰は合わないのかもしれません。それだけ太宰っぽい言葉ぎっしりの短編です。

厳密に言うと、この「葉」は小説ではありません。太宰がそれまでに書き溜めた原稿の中から、捨てがたい断片や言葉だけを切り取って繋げた”つぎはぎコンテンツ”です。 断片と断片に繋がりはないので、全体のストーリーも特にありません。

 

だけど、面白い。自己憐憫、ビンビン。太宰の魅力、満載。

 

冒頭はフランスの詩人 ヴェルレーヌの引用からはじまります。
「選ばれてあることの恍惚と不安と二つ我にあり」

 

「選ばれて..」と言い切れるところがもう太宰。選ばれている事は大前提であって、それ故に 恍惚と不安の葛藤で悩んでいます…という事でしょうか。 選ばれている事を自覚し、尚且つその才能に悩む事ができるのは、天才の証です。
フランスの文豪スタンダールは、名作「赤と黒」でこう言ってました。「天才の特徴は、凡人が引いたレールに自分の思想をのせないことだ」と。

 

ではいくつか印象的な断片を 以下に紹介します。

 

  • 白状したまえ。え?誰の真似なの?
  • 生まれて初めて算術の教科書を手にした。ああ、中の数字の羅列がどんなに美しく眼にしみたことか。少年はしばらくそれをいじくっていたが、 やがて巻末のページに全ての解答が記されているのを発見した。少年は眉をひそめて呟いたのである。「無礼だなあ」
  • 「お前は器量が悪いから、愛嬌だけでもよくなさい。お前は体が弱いから、心だけでもよくなさい。お前は嘘がうまいから、行いだけでもよくなさい」
  • 知っていながらその告白を強いる。なんという陰険な刑罰であろう。
  • よい仕事をしたあとで 一杯のお茶をすする
    お茶のあぶくに きれいな私の顔が
    いくつもいくつも うつっているのさ。
    どうにか、なる。

…などなど。

 

太宰がすごいのは「狙ってる文章を、狙ってない」ように思わせてしまう所です。太宰のフィルターを通せばどれだけ青い中学二年生な言葉でも、余計な邪推のカーテンなしにそのまま私たちの胸に突き刺ささります。ざっくりひとことで、天然或いは憎めない人。

 

これだけ愚痴愚痴してるのに、リアルでは女性にモテモテ、小説は今なお万人に愛される。

この人たらしっぷりは太宰くらいなものです。

 

弱さをさらけ出すことは、弱い人にはできません。たぶん。
ぐずぐず言いながらも、本当は強かったんでしょうか。謎み。

作品はどれも、抜群におもしろい。

 

やはり天才か。

太宰治|ワンダーワーカーのBlog
太宰治
晩年|ワンダーワーカーのBlog
上部へスクロール